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執筆者の写真kumada rie

自己否定のループから抜け出す方法~シェイムと依存症のメカニズム


自己否定が止まらないことは苦しい

気付いたら自己否定してしまう、自己否定をやめたいのにやめられない、という人は多いと思います。私はずっとそうでした。些細なミスや間違いでも、いや間違ってすらいなくても「私はダメなんだ」と思ったり、目の前の出来事を「自分が悪いからこうなった」と思うタイプでした。

例えば、職場で同僚がミスをしたときに、「自分がもっと気を付けていれば防げたのではないか」と自分を責めたりしていました。


自己否定の悪循環

自己否定がやっかいなことの一つに、ループに入ってしまうことがあります。自分を責任にすることには際限がなくて、いくらでもどんな出来事でも自分のせいにできてしまいます。だから自分で自分の首を一層絞めてしまう。自己否定は本当に苦しいです。例えば、友達に約束をキャンセルされたら「私と遊んでもつまらないから嫌われたのかも・・・」と感じたり、電車で隣に座った人が立ち上がっただけで「何か悪いことしたかな」と思ったり。不機嫌な人が周りにいると、自分が何かしたからだと思ったりしてました。


依存症との関連

私は摂食障害やリストカット、薬の多量服薬、買い物依存など様々な依存症を経験してきましたが、依存症はこの自己否定をさらに強めます。食べ物がもったいない、作った人に申し訳ない、食べ物を吐くなんて許されないのに、私は悪いことをしている、みっともない、情けない、体にも良くない、こんなこと絶対誰にも言えない・・・、そう思うから、なおさら過食嘔吐したり、カッティングしたり、ODしたりするわけです。自己否定感、罪悪感、劣等感、敗北感の恐ろしいほどのループです。

この苦しみを少しでも減らしたくて電話相談や心療内科で相談して「身体に悪いからやめたほうがいい」「親御さんが悲しみますよ。どんな思いであなたを育てられたか」と言われて、余計に過食嘔吐やカッティングが酷くなったこともよくありました。今は理解のある医療機関、相談先が増えていると思いますが、以前は相談して余計に傷付いて、ということがよくあって、本当につらかったです。


真面目で優しい人が多い依存症

元々、依存症になる人は真面目で優しい人が多いです。だから、世間が言いそうなことなんて、言われなくても本人は十分過ぎるほど分かってますし、24時間365日、世間が言いそうな言葉で自分を責めています。無意識でも責める言葉は続いているので、思っている以上に、自分で自分を責めて傷付いている人が多いです。


依存症はサバイバルの手段

依存症はそんな真面目で優しい私たちが、こんな苦しい世の中でもなんとか生き延びようと考え出したサバイバルの手段です。だから、私は依存症を悪いものとは思わないし、むしろ自分を助けてくれた相棒のように思っています。だって、それしかなかったんですから。「誰も助けてくれない、話を聞いてくれない。信じたら裏切られて、傷付けられる。人間なんて誰も信用できない。でも、モノは裏切らない。だからモノにすがって生きよう・・・」。当時そう考え、依存症を起こしながらも生き延びてきたことについて何が悪い、むしろよく頑張った、と今は思えるようになりました。(依存症を敵視して攻撃せず、自分のがんばりの一部だと考えることは、回復につながりました)

その反面、根本的な解決にはつながっていないので、依存している間は多少痛みがやわらいだ気がしますが、現実を見ると何も変わっていないので、余計に苦しくなります。


自己否定とトラウマ

依存症の人の30~45%に、いじめや虐待などの経験があるという報告があります。何かしらトラウマを負うような体験がベースにある人もいると思います。ただ、私はその体験と同じほどにやっかいなのが、この自己否定感なのではないかと思っています。自己否定感はつらくて悲しい体験に、さらに追い打ちをかけたり、拍車をかけて苦しくしていきます。体験がなくても、自己否定感はそれだけで膨張し続けて、自分をむしばんでいきます。

例えば、学校でいじめに遭っていたとき、その経験が自己否定感を強めてしまうことがあります。悪いのはあきらかにいじめという行為ですが、いじめられているのは自分が悪いからだと思い込み、強い自己否定感、劣等感、罪悪感、敗北感はその後の人生にまで影響を及ぼすことがあります。


シェイム(Shame)とは

こころのケア講座では、人間の基本感情の一つ「シェイム:Shame」について説明しています。シェイムは、まだ日本語に適切な訳語がなくて、専門家も「シェイム」と呼ぶ人もいれば、「自己否定感」と呼ぶ人もいます。シェイムとは、自分を仲間の輪に属させるため、自分の存在に対して感じる感情です。

自分だけ周りと違う服を着ていたり、違う行動をして、「あーっ」と体が縮こまっちゃうような感覚になることがないでしょうか。それがシェイムです。シェイム自体はただの感情なので善悪はなく、シェイムが働くことで、自分に集団のルールや規律を守らせるので、集団生活でサバイバルしてきた人間には必要な感情です。


シェイムと自己否定

ただ、このシェイムが過剰に働くと、必要以上の自己否定を起こします。「私はダメ人間」「みんなより劣っている」「私は生きる価値がない」「私は要らない存在」「生まれつき他の人と違う」といった、自分自身に対して刺してくるように痛くて苦しい、劣等感、疎外感、敗北感のような感情をもたらします。このシェイムは外部から植え付けられたものであり、自分の中にあるものでは決してありません。ところが、このシェイムはまるで自分のアイデンティティであるかのように自分の中に居座り、自己否定を枝葉のように膨らませ続けます。これがシェイムの非常に厄介なところです。自分のものじゃないのに、あたかも自分自身かのようにふるまって自分を傷付けてくるのですから。そして家でも社会でも、どこにいても安心も安全も感じられないし、この世界のどこにも自分の居場所はないし、そんな自分を理解してくれる人なんて誰一人いない、と思うようになっていきます。

私も、まさしくそう思っていた一人です。これを読んでおられる方の中にも同じように感じている方がおられるとしたら、もしかしたらその裏にシェイムが潜んでいるかもしれません。


トラウマ研究の大家、クラウディア・ブラック氏は「トラウマ反応の多くは自己否定感が具現化したものです。自己否定感を抱えたまま無理に生きようとすることが、完璧主義や抑えられない怒り、他人への執拗なコントロールを生み出します」と語っています(「あなたの苦しみを誰も知らないートラウマと依存症からのリカバリーガイド」2021年金剛出版」)。



シェイムの対策

自己否定がシェイムの一部だと気付くと、かなり楽になってきますし、緩和できます。シェイムのケアは、トラウマケアと共通していることがたくさんあります。ここでは書き切れませんが、こころのケア講座では、このシェイムを丁寧に解説し、どう取り扱っていくかをお伝えしています。7月の講座のテーマも、このシェイムでした。自己否定の正体がわかり、そういうものだとわかったら、ある部分にはあきらめもつきますし、対策できる部分には対策できて自己否定のループから抜け出すことが少しずつでもできるようになってきます。私はこうして知識を身に付けることでかなり楽になったので、同じ苦しみを抱えている人たちに少しでも楽になって頂けたらと思い、丁寧にお伝えさせていただいています。

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