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痛みと感情を語る大切さ―性暴力加害者の心理と治療から学ぶ社会の課題

執筆者の写真: kumada riekumada rie

※この記事では性暴力に関するトピックを扱っています。内容によっては不快感を覚える方もいらっしゃるかもしれません。ご自身の状態を考慮してお読みください。


 2月28日と3月1日の二日間、日本NPOセンター主催の「女性のライフサポート研修」に参加しました。昨年に引き続き今年も参加させていただき、女性支援政策の動向や先進事例を知る貴重な機会となりました。


 今回特に印象に残ったのは、性暴力加害者の心理と治療に関わっておられる斉藤章佳さん(西川口榎本クリニック副院長)のお話でした。以下、研修で学んだ内容と私の考えを共有したいと思います。


※斉藤さんはご自身を「加害者臨床の専門家」と仰っていました。加害者臨床という言葉は日本ではまだなじみがないと思うので、このブログでは「加害者の心理と治療に関わる」という表現を使っています)


性暴力の本質について

 斉藤さんのお話によると、性暴力は学習された行動である、とのことでした。加害者は日本社会の縮図であり、加害者がどのようにこの社会を見ているかを知ることは、現代社会が抱える問題を読み解く助けになると感じました。

 性暴力の原因について、世間では「性欲が原因」と言われがちですが、この理由付けは本人の行為責任を隠蔽でき、加害者側に都合がよいものだと指摘されていました。本質的には加害者に支配関係への強い欲求があるということで、どんな暴力も根底には支配に対する強い執着やこだわりがあるという説明は、とても頷かされました。


「加害者性」について考える

 「加害者性」という概念について説明があり、これは自分より弱いものを傷つけることで自尊心を回復させたい、パーソナリティを安定させたいという誰にでもある願望、とのことでした。 私自身も振り返ると、ストレスを感じた時に弱い立場の対象に向けて発散してしまう傾向があったことに気づかされます。特に子育ての中で感じるストレスは、衝動的な感情につながることもありました。

 斎藤さんは、自分の中のこうした面に気づきながらも、それを制御できるようになることが大人になることだとおっしゃっていました。このお話には共感しました。誰もが様々な感情を持つ中で、それを認識し、適切に管理するスキルを身につけていくことの重要性を改めて感じました。


感情と痛みを語ることの大切さ

 斎藤さんによると、加害者は「思考」を語ることは得意ですが、「感情」を語るのは苦手な傾向があるそうです。恐らく加害者自身が痛みを感じた時に抑圧させられてきた(「男の子が泣くのは恥ずかしい」などと言われて)ために、感情を語ることができなくなり、その結果、他者の痛みにも非常に鈍感になり、女性を対等な人間として見ない傾向につながっていくということでした。

 そのため、「人は痛みを大切にしてもらう経験が必要」というお話は、とても頷かされました。痛みを大切にするには、その相手としっかり向き合う必要があります。そして、相手が安心して痛みを語るには、安心安全な環境と信頼関係が必要です。


 トラウマケアでは、感情をとても丁寧に扱います。適切に処理されず残ってしまった感情はトラウマの原因にもなります。人にとって必要なのは、痛みを語れる場所、安心安全のつながりがあることなのだと、改めて認識させられました。

 自助グループを運営する立場として、一人の息子の母親として、どれほどできているか、と問いかけられたような気持ちにもなりました。


被害者支援と加害者の心理治療

 正直なところ、私自身は加害者側の支援には関わりたくないと感じています。日本では性暴力の被害者が適切な支援を受けられず、被害者の方が傷を負って苦しみを抱えたまま生きていかなければならないケースが多く見られます。近年の芸能界での性加害に関する報道を見ていても、被害者よりも加害者への配慮が優先される風潮に疑問を感じることがあります。

 最優先されるべきは被害者支援であることは言うまでもありません。被害者が安心して回復できる環境、二次被害を受けない社会の実現が急務です。

 その上で、加害者が変わらないということは社会も変わっていない、ということでもあり、斉藤さんが指摘されていたように、加害者の心理治療と被害者支援は両輪で行われなければならないという視点は重要です。より充実した被害者支援と並行して、加害の連鎖を断ち切るための取り組みも必要なのだと思います。

 加害者の心理を理解し治療するという視点が日本社会の抱えている課題を提起でき、社会全体の価値観や考え方を変えていけることにつながれば、と思います。ただし、それは決して被害者支援の重要性を減じるものではなく、むしろ被害者中心の支援体制をより強化するための補完的な視点としてだと思います。

 私たち一人ひとりが安心して自分の感情を表現でき、互いを尊重し合える社会の実現に向けて、これからも学び、考え続けていきたいと思います。


コクリコ堺
女性のライフサポート研修が行われたコクリコ堺(堺市立男女共同参画センター)大変お世話になりました。ありがとうございました。



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