有賀徹氏(昭和大病院長、写真)は17日、日本病院会主催のシンポジウムで「昭和大では入院患者からの相談はがんが半分以上。その中で、がん治療をきっかけに生活保護を受給し始める人が年間100人以上いる」と話しました。生活保護受給者の医療の話はよく出ますが、入院をきっかけに生活費に困窮して生活保護受給者になる人の話は、あまり聞かないのではないでしょうか。興味深かったので、ディスカッションの内容を紹介します。
「急病と社会のしくみ」と題したシンポジウムでは、有賀氏のほかに前原和平(白河厚生総合病院長)、矢野久子(東京都品川区保健所長)、阿真京子(「知ろう!小児医療!守ろう子ども達」の会代表)、藤井栄子(春日部市立病院看護師長)、佐野晴美(社会保険横浜中央病院医療ソーシャルワーカー)が登壇。国内の救急搬送の現状と問題点、民間の二次救急医療機関の減少、高齢者やがん患者の生活と医療などの話題が上がりました。 ディスカッションで有賀氏は、がん治療にかかる費用負担が大きいために、入院中に生活保護を受給し始める患者がいること話しました。これを受けて藤井氏は、「年間に5人から10人ぐらい、治療をきっかけに生活保護になる人がいます」と発言。首都圏の有名がん治療拠点病院に入院していた患者が、治療費を払い続けることができなくなったと言って、転院の相談を受けることがあるとしました。「離婚になって治療費がが払えないとか、40代、50代の若い方がおられます。公立病院なので、他にないらご協力しましょう、ということでやっています」と話しました。 シンポジウム終了後に話を聞くと、藤井氏は「治療がそんなに長期間になると予想できなかった人もいると思います」と話し、予想以上に治療期間と費用がかかったために支払い不能の状態に陥る人がいると実感を話しました。 有賀氏は、がん治療にかかる費用は、入院と外来で金額が異なることを指摘。入院は治療や薬、ホテルコストが”まるめ”になる包括払い方式のため高額になり過ぎることはないけども、外来の場合は分子標的薬など高額な薬を使うと格段に高くなるとしました。さらに現在の化学療法は外来治療が主流になっているともしました。「元々月収が20万円とか30万円の人だとすると、例え高額療養費制度を使ったとしても毎月約8万円を支払い続けるのは難しい。元々年金などでギリギリの生活をしていた高齢者だと、制度の上限が低いとしても支払いが難しく、生活保護になる人が多い」と話しました。 佐野氏は、「がんだけでなく、治療をきっかけに生活保護になる人は多いです。医療費だけでなく、最近はリースが多くなっている入院時の衣服やタオル代、オムツなど自費になる分を払えなくて生活保護になる人がいます。生活保護を受けられる人はまだよくて、収入がほんの1000円ぐらい受給の基準を上回るだけで生活保護を受けられず、制度のはざまに陥って生活に苦しんでいる人達が多くいます」と話しました。 ■ ■ ■ すでに生活保護を受けている人が医療を受ける際の話はよく出ます(モラルの問題や、薬の転売などが多いですが・・・)。しかし、入院をきっかけにそれまでの生活ができなくなって生活保護の受給に至る人の話は、あまり聞かないのではないでしょうか。予想以上の治療期間となって医療費がかさんでしまったり、入院時の服のリースなど、思わぬところで負担が発生したり・・・。病気になって入院するだけでも生活が一変するのに、生活保護受給者になってしまうとは、さらに様々な負担が増すのではないでしょうか。精神面への影響も大きそうです。 これはなかなか興味深い話題でした。実際はどうなっているのか、取材を深めてみたいと思いました。
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